椎間板ヘルニアだけが原因ではない?|坐骨神経痛の最新研究

近年は、腰椎そのものの異常だけでなく、背骨を支える筋肉の萎縮やお尻の梨状筋による神経圧迫など、複数の要因が痛みやしびれに関与していることが明らかになってきました。
最新研究をもとに次の3つの視点から坐骨神経痛の原因を解説します。
- 画像検査で異常があっても必ずしも痛みにつながらないこと
- 大腰筋・多裂筋など背骨を支える筋肉の萎縮や質的変化との関連
- 梨状筋症候群など椎間板以外の筋肉による「非椎間板性」坐骨神経痛
腰椎の異常と坐骨神経痛|画像の異常=痛みではない
椎間板ヘルニアなど腰椎の異常によって坐骨神経痛が起こることはあります。ただし、検査で異常が見つかったからといって、それが必ず痛みの原因になるとは限りません。

実際に、腰痛のない人を対象とした研究では、MRIで6割以上に椎間板の「ふくらみ」や「飛び出し」が見つかっています。さらに別の研究では、腰痛のない人の7割以上に「椎間板ヘルニアのような所見」が確認されました。最近の大規模な調査でも、症状がなくても年齢とともに椎間板の変化が増えることが示されています。
つまり、坐骨神経痛は「椎間板の異常=痛み」とは言えず、筋肉の緊張や血流の悪さ、心理的な要因なども関わっていると考えられます。
大腰筋・傍脊柱筋の萎縮と坐骨神経痛の関連
椎間板ヘルニアは、萎縮した大腰筋側に突出することが多いと報告されています。大腰筋のアンバランスや萎縮によって腰椎を支える力が弱まり、日常の動作や軽い負担でも発症につながる可能性があります。
また、椎間板ヘルニアや坐骨神経痛のある方では、背骨を支える大腰筋や多裂筋が細くなり、脂肪が入り込んで弱くなっていることもわかっています。こうした筋肉のアンバランスや質的な変化が、痛みやしびれと関係しているのです。

研究では椎間板ヘルニア患者の90%以上に大腰筋の萎縮が認められ、萎縮した側に椎間板が突出する傾向が高いこともわかっています。つまり筋肉の状態を整えることは、症状の改善や予防に欠かせません。 (陳進軍 中国現代医学雑誌2003年2月号)
腰や足に痛みがある方を調べると、背骨を支える筋肉(多裂筋や大腰筋)が細くなったり、脂肪が入り込んで弱くなっていることがわかっています。こうした筋肉の変化は、痛みの強さや動きにくさと関係していると報告されています。筋肉のバランスを整えることが、回復にとても大切なのです。 (出典:Wan Q, Eur Spine J. 2021)
梨状筋症候群(深殿部症候群)による非椎間板性坐骨神経痛
アメリカでは毎年150万件以上のMRIが行われていますが、手術が必要とされる重度の椎間板ヘルニアは全体の約20%に過ぎません。さらに手術を受けた患者の約3分の1は、痛みが十分に改善しないと報告されています。
シーダスサイナイ医療センターのFiller博士らが、治療を受けても改善しなかった232例を詳細に調べたところ、162例(70%)は「梨状筋症候群」であることが判明しました。残りの約30%も、MRIでは確認できない神経や関節・筋肉の問題が見つかっています。 (Journal of Neurosurgery:Spine, 2005;2)

近年は「深殿部症候群(Deep Gluteal Syndrome, DGS)」と呼ばれ、非椎間板性の坐骨神経痛として注目されています。MRIで異常が見つからない場合でも、こうした筋肉性の原因があるのです。
坐骨神経痛の原因は椎間板ヘルニアだけではありません。お尻の奥にある梨状筋という筋肉が硬くなり、近くを通る坐骨神経を圧迫して痛みやしびれを起こすことがあります。これを「深殿部症候群」と呼び、近年の研究でも注目されています。手術をしても良くならない方の中には、このタイプの坐骨神経痛が隠れている場合があるのです。 (出典:Martin HD, JBJS Rev. 2021)
まとめ
坐骨神経痛は椎間板や骨などの異常だけでなく、筋肉の萎縮やアンバランス、梨状筋などによる神経圧迫が大きく関わっています。
MRIなど精密検査や整形外科での治療は第一優先ではありますが、画像検査に頼るだけでは見逃されやすい原因もあるため、症状に合わせた総合的なアプローチが必要です。
当院では最近の研究結果などを踏まえ、深部の筋肉にも届く中国鍼灸で改善を目指しています。
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この記事を書いた人

医学博士・鍼灸師 箱嶌 大昭(はこしま ひろあき)
中国・北京にて日本人初の医学博士を取得後、福岡・天神で「中国鍼灸院 箱嶌医針堂」を開業。肩こり・腰痛などの一般症状から、自律神経失調症や気象病による体調不良まで幅広く診療。
「坐骨神経痛は鍼灸で改善が期待できます。お気軽にご相談ください。」 → 院長の経歴・あいさつ